山翠舎のブログ

【小さなお店をつくる山翠舎のデザインマニュアル】 vol.1カウンター編/前編

2021年12月06日配信

古木を生かした店舗設計を手がける山翠舎が過去12年間で携わった飲食店の存続率は、コロナ禍でも8割強。3年存続率が3割といわれる飲食店業界で高い数字を誇り、首都圏にも多数出店しています。

その成功につながっているデザインとは?

山翠舎のベテランデザイナーであるKさん、Yさんへの率直な疑問を、見習いデザイナーのHさんが投げかけ、業界動向を踏まえながら、基準寸法やリアルな経験に基づく考え方を図解していく企画。

初回は、小さなお店が避けて通れない「カウンター編」です。

登場人物/見習いHさん、ベテランYさん、ベテランKさん

星野さんイラスト 見出し


【コンテンツ】

お題その1/カウンター形状について
お題その2/カウンターやイスの高さ、脚置き台について
お題その3/荷物置きについて
お題その4/厨房の吊り棚について


【前編】お題その1/カウンター形状について

Kさん
居酒屋さんだとコの字型のカウンターがたまにありますよね。コの字型L字型I型か。

業種と見合ったカウンターの形状は店をつくるときにポイントになります。

Hさん
コの字型、L字型、I型が基本フォーメーションですか?

Yさん
門前仲町の「門前茶屋」というお店はケヤキの一枚板でR型のカウンターをつくり、その中に炉端の焼き台を置きました。規模が大きいお店の場合はそういうこともできます。

▼門前茶屋 R型カウンター
門前茶屋カウンター


ただ、小さな店の設計となると、コの字型のカウンターが多くなります。

コの字型は見た目も面白いし、オペレーションもうまくできるというメリットがある一方で、実は設置がなかなか難しい。長方形の店舗の場合、コの字型にすると、カウンターの客席と背後の壁際が狭くなって、通路として人が通れなくなることがあります。

Kさん
それと、コの字型の場合、カウンターの内側で調理はしないほうがいい。カウンターの奥に厨房があるのが基本の考え方です。カウンターではおでんやもつ煮込みといった調理済みのものを簡単に温めて出すなど、臨場感のある演出をする店が多いですね。

Hさん
オープン前に仕込んだものをコの字型のカウターの内側で温めて、お客さんが来たら提供するオペレーションですか?

Yさん
お客さんが入店したときにカウンターの中に置いてある鍋から湯気が立っていて、そこをお客さんがのぞいていくようにしたいんですよね。

Kさん
そういう希望でつくったのが、荻窪の「煮込みや まる。」さん。

コの字型のカウンターにしたいというオーダーで、カウンターの中にもつ煮込み3種類を置いてよそっています。熱燗を燗銅壺(かんどうこ)という設備でお燗する演出もしていて、厨房は裏側にあります。

▼煮込みや まる。 コの字型カウンター
maru2


Yさん
コの字型のカウンターは料理を見せるだけでなく、着物を着た女将さんが立っていたり、割烹着を着たおばちゃんが立っていると面白い。どちらかというと、吉田類の番組に出てくるような場末の店の雰囲気です。

ただ、僕も今まで何回かコの字型カウンターの店をつくろうと思っていたけど、客席数が減ってしまったり、通路をつくらなきゃいけないという理由でできないところが多かったんです。意外と面白いのですが、お店側の問題もあったりで、山翠舎では結果的に多くはないですね。

Kさん
厨房で料理して手前にあるカウンターで提供できるものでないと難しいですから。

Hさん
コの字型が実現できなくても、渋谷の「えんらい」さんのようなかたちで、ちょっと小さいミニバージョンのコの字型カウンターもありますよね。

▼えんらい ミニバージョンのコの字型カウンター
えんらい

Kさん
裏側の厨房で作ったものをコの字型のカウンターに持ってきて提供となると、スタッフがふたり必要だったり、オペレーションがやりづらいこともありますが、その問題がクリアできればミニバージョンというかたちも取れますね。

Yさん
そうなんですね。それに、コの字の中は作業性のために広すぎてはダメなんですが、狭いと向かい側のカウンターの人と距離が近すぎるので目が合ってしまいます。


星野さんイラストコの字-1


そこで、以前に提案したお店では、コの字の片側をスタンディングのハイカウンターにして、もう片側は座らせるようにしたら受けました。ただ、最終的には通路を取らないといけなくて、厨房も然るべきスペースが必要だったのでL字型になったんですけど。でも、このハイカウンターにするかたちは面白い。

この場合、基本的に付け台(寿司屋のカウンターなど、カウンターとキッチンの間にある一段高くなっている部分)はつくりません。付け台があったほうがお客さんからの目隠しになっていいんですが、ハイカウンターにするなら付け台なしのほうが店の人とお客さんとのやりとりがしやすくなると、この店のオーナーさんが話していました。

大抵の店はL字型になってしまいますが、コの字型のほうがシンボリックなので希望するオーナーさんが多くいます。

Hさん
つまり、コの字型のカウンターは理想だけど、物件の形状によっては制約があって、オペレーション的にもコの字型のカウンターの中で調理ができなかったり、バック厨房を設けないといけなかったり、ハードルが高いんですね。

Yさん
広さの問題でいえば、去年、事情があって途中でペンディングになりましたが、6坪のお店の計画をしたときにコの字型のカウンターができました。厨房の設備を限りなく絞り込み、ガスレンジはひとくちだけにして、冷蔵庫もコールドテーブルで、テーブル型の冷蔵ショーケースをコールドテーブルの上に2段重ねで積み上げたんです。あの店が実現したら面白かったですね。

提供するメニューにもよりますが、条件が合えば6〜7坪でもコの字型カウンターの店ができることがわかりました。

Hさん
コの字型カウンターありきで厨房機器を削ってメニューを絞っていったということですね。

Yさん
その店は近くにもう一軒ご自分の店があるので、そこで煮込みを作るなど、仕込みは別のところでやるという条件がありました。ただ、どうしてもコの字型カウンターをつくりたいとおっしゃれば、絶対に無理ということはないとわかりました。

Kさん
とはいえ、コの字型の設計の店は山翠舎では10%もないですね。

Hさん
コの字型を諦めたときに出てくるのがL字型ですか?

Kさん
L字型の場合、多いのがお寿司屋さんですが、我々の設計も割とL字型にすることが多いですね。

ただ、L字型にするデメリットとしていつも感じるのは、側面のカウンターに座る人たちから厨房の中の足元が丸見えになってしまうこと。

小さな店だと2〜3人のお客さんが座りますが、厨房の床が汚いと食べているものがまずく感じられます。実際に昔設計したお店で厨房の床が汚くて、側面のお客さんからクレームがあったケースがありました。なので、厨房を常にきれいにしていないといけないという問題があります。

Yさん
僕がさっきまで打ち合わせをしていたお施主さんの計画は、13坪の中にカウンターが2カ所あって、カウンターの高さをそれぞれ1mと750mmにして、店の奥に客席と厨房を設けています。750mmのカウンターが入り口側で、1mのメインカウンターに厨房機器を入れるんです。

それで、入り口側のカウンターには火鉢を置き、水を張ったところにラムネや冷酒をさしておいて、お客さんに申告制で取ってもらうというお客さん任せのサービスです。

つまり、入り口側のカウンターを前室というか、使い方によってはウェイティングというかたちにして、あくまで奥を客席とし、奥が空くまで遊んでもらうイメージです。そのカウンターの後ろに天井までの高さの棚の什器をつくってお酒を積み上げます。
星野さんイラストLの字-1


なぜこのかたちになったかというと、実際は広い区画なのでカウンターを奥まで伸ばしたかったものの、スペースが取れなかったため、人が通れなくなるから短くしたんです。

ただ、それでは格好がつかないからもう一個カウンターをつくりました。それだけでは遊びがなくて面白くないので、ウェイティングスペースを設けたんです。それでオペレーションができるお店なら面白い。ある程度スペースがあるなら、遊び感覚でつくればいろいろなことができます。その場合、お施主さんにも遊び心がないと理解してもらえないんですが、13坪でこれだけのカウンターができました。

カウンターの使い方もさまざまということです。

Hさん
L字型の場合は、短いカウンター側はだいたい2〜3人が座るイメージですか? カウンター席で奇数になったときはどうなのかな。

Kさん
L字型のカウンターの一番よいのは、角に2〜3人のグループ客や2人客をもっていくことです。角席はL字型で一番いいところで、そこに3人座らせることをイメージすると、直線のI型カウンターでは両端の人が遠くなりますが、角席なら近くで話ができるメリットがあります。だから、カウンターに角がほしいというオーナーさんもいます。

Yさん
I型カウンターは自由がきかなくてあまり好まれませんし、テーブル席で一番困るのは、1人客や3人客など奇数での来店です。特に1人客は2人分の席数を取る必要があります。

その点、客席のロスを少なくするという意味では、コの字型にすると角が2カ所になるからいいというメリットもあります。

Hさん
逆にI型はどんな特徴になりますか?

Kさん
I型は一般的なかたちで、お店の人の出入り口をどう取るかが変わるくらいです。

10坪ほどの店なら、店の人はカウンターの両側ではなく片側から出るようにしますが、トイレに近いところにその出入り口を設けたり、オペレーション上、お客さんの送り迎えをしたり、挨拶をするために店の入り口に近いところから客席に出られるようにしたり。

ただ、カウンターの見え方としてはI型はシンプルで動きがないので、面白みがないかたちです。そのため、僕らが設計する10坪ほどの店はL字型が多いんじゃないかな。動きがあるし、角もつくれるし。あとは特殊なかたちがありますが、それを話すとキリがありません。

Hさん
I型のカウンターの場合、通路となる壁との最小幅はどのくらいになるんでしょう?

Kさん
90cmが基本です。その広さがあれば余裕で通れます。

Yさん
先日設計した店は80cmでも通れました。1mの広さをとると、トレイを持ったスタッフとお客さんがすれ違うこともできます。お店の客単価にも絡んできますが、最小は80cmで見ていいと思っています。

ベストは90cmです。3人以上の動線が重なる場合は90㎝では狭い場合もあります。

Kさん
ただ、その数字も基本はハイカウンターの場合で、ローカウンターにすると後ろに椅子を引いてふんぞり返るから、1mくらいないといけません。

ギリギリで90cmくらいでもいいのですが。そういう意味では90cmと覚えておいたほうがいいですね。
星野さんイラストI型カウンター


Hさん
YさんがつくったR型のカウンターの場合は、厨房機器はどうするんですか?

Yさん
そもそもR型のカウンターの場合は、例えば60平米くらいの広さがあって、奥に厨房を設け、テーブル席や座敷も備えられる店になります。その広さなら、入り口部分にR型のカウンターをつくることもできます。

R型のカウンターが入り口にあると、外から見ると面白いんです。特に入り口に近いお客さんは入り口側に背を向けているので、カウンターに座っていても嫌ではありません。

とある多店舗展開をしている飲食店の社長が話していましたが、外から見て、カウンターに並ぶお客さんの背中しか見えない店が一番そそられるそうです。お客さんが入り口を向いていると入りづらいんですが、背中を向けていると入りやすい。広い店ならいろいろなかたちのカウンターがあっても面白いですよね。


ただ、そういう点では、小さな店であれば、お客さんがどこに座ってもお互いに目線が合わないL字型が一番入りやすいともいえます。

店をつくるときに一番考えるのは、各場所に座ったお客さんの視線がいかに合わないようにするか。それによって、テーブルやカウンターの高さを決めることから設計に入ることもありますよね。


中編につづく

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