山翠舎のブログ

店舗設計会社社長は知っている! 繁盛する飲食店がやっている開業までの12ステップ~ステップ1.コンセプト検討

2022年02月16日配信

ごくりっ

「いつかは自分のお店を!」と夢見る人は少なくないでしょう。一方で、飲食店の70パーセントは3年以内に閉店してしまうという厳しい現実もあります。山翠舎では過去12年間に500店舗もの飲食店の設計施工を手がけてきました。そして、これらの店の継続率はコロナ禍でも83.7%。つまり、「潰れない店」の立ち上げに多く関わってきたということ。この企画では、潰れない店・繁盛する店の開業の裏側を熟知しているという立場から、また、集客を大きく左右する「内外装」の設計施工会社の社長という立場から、飲食店開業までの12ステップごとにその重要ポイントを考察してみたいと思います。


【コンテンツ】

  • ステップ1.コンセプト検討(開業1年以上前)←今回はココ!
  • ステップ2. 店舗用物件探し (開業1012ヶ月前)
  • ステップ3. 事業計画作成(開業68ヶ月前)
  • ステップ4. 資金調達(開業56ヶ月前)
  • ステップ5. メニュー開発(開業4~ヶ月前)
  • ステップ6. 店舗内外装設計・施工(開業4ヶ月前)
  • ステップ7. 厨房設備購入(開業23ヶ月前)
  • ステップ8. 什器・備品購入(開業12ヶ月前)
  • ステップ9. 各種届出・手続き(開業1ヶ月前)
  • ステップ10. スタッフ採用・トレーニング(開業1ヶ月前)
  • ステップ11.広報・宣伝(開業13ヶ月前)
  • ステップ12.プレオープン(開業1週間前)・グランドオープン

ステップ1.コンセプト検討(開業1年以上前)

今回から複数回にわたり、これから飲食店を開業したい方のために、お店オープンまでに必要なステップと、そのステップごとの重要ポイント、繁盛店は何を実践してきたのかについて書いていきたいと思います。

その前に、飲食店といってもさまざまですので、弊社のお客さまのプロファイルを簡単にご紹介しておきましょう。飲食店には法人企業が手がけるチェーン店と個人経営のお店と2種類ありますが、私たちのお客さまは個人店。多店舗展開したとしても3店舗くらいまでの方が多いです。

また、オーナーは経営に専念し料理はシェフに任せているお店と、オーナーが料理人を兼ねている、いわゆる「オーナーシェフ」のお店があります。私たちのお客さまは後者がほとんど。ご主人が料理人で奥さまがホール担当、あとはアルバイトが数名といったような規模のお店です。

将来開業したいと思っているお店がこのくらいの規模をイメージされている方には、これからこのブログで書く内容が大いに参考になると自負しております。また、飲食店経営者や飲食店コンサルタントによる開業ノウハウの本やサイト、デザイナーや設計士などの専門家による店舗デザインの解説本やサイトはたくさんありますが、店舗専門の設計施工会社の「社長」という視点で書くのはちょっと珍しいのではないでしょうか。これまでの開業ノウハウにない、ユニークな内容になるかと思いますので、どうぞ最後までおつきあいください。

さて、飲食店を開業しようと思ったら、まず取りかかるべきことは「コンセプトづくり」です。コンセプトとはお店の「テーマ」や「方向性」「基本的な考え方」のこと。料理や内装、立地、価格、営業時間など飲食店のすべての要素を貫く骨子となるものです。なぜその場所で、その内装で、その料理を、その値段で出すのかなど、すべてをきちんと説明できる考え方のことをいいます。

このコンセプトが一貫していることこそ飲食店成功のカギ、と飲食店開業の専門家は口をそろえます。たとえば、コンセプトが「会社員が仕事帰りに気軽に立ち寄れる魚のおいしい居酒屋」なのに、駅から遠かったり、夜遅くまで営業していなかったり、敷居が高そうな高級すぎる外観だったりしたら、お客さんは来てくれないでしょう。

私もコンセプトの一貫性の重要さは、店舗の設計施工会社という立場から日々現場でも実感しているところです。

弊社ではオーナーさんからコンセプトをうかがって、それを内外装に落とし込み、設計・施工して店舗をオーナーさんに引き渡します。その際に「素晴らしいものを作っていただき、ありがとうございます。ここで営業を始めるかと思うと身が引き締まる思いです」とか「この空間に見合う料理やサービスになるよう、これからがんばっていきます!」などと言っていただくことがよくあります。そして、そのように言ってくださったオーナーさんのお店はすぐに地域で愛される繁盛店となってゆくのです。

どうやら料理、サービス、内外装、器など飲食店を構成するさまざまな要素がコンセプト通りにうまくハマって、それぞれが最高のものになったとき、それらが「足し算」ではなく「掛け算」になって、普段の実力以上の「マジック」のようなパワーが生まれるようです。このようなミラクルが起きるのを私はたびたび目撃してきました。

また、私にはこれまでにたくさんの飲食店開業に立ち会って見出した、いくつかの「繁盛店の法則」がありまして、そのうちの1つに「繁盛店のオーナーは繁盛店出身」というものがあります。

設計施工の依頼を受けてオーナーさんと打ち合わせをしていますと、その方が有名な繁盛店で修業している、あるいは、していたと判明することがよくあります。すると、その方のお店もやはり同じように成功するのです。

これはなにも「かつての修行先のコンセプトを真似して開業した」ということではありません。修行したお店とコンセプトがまるで異なるお店もたくさんあります。

では、なぜ繁盛店で修業した人が成功するのかといいますと、先に述べたような、コンセプトがうまくハマったときにすべてがうまく回り出すマジックを「体感」しているからではないかと思うのです。飲食店の徒弟関係では、師匠が弟子に開業ノウハウを懇切丁寧に教えることはあまりないので、あくまでも「体感」。コンセプトが一致することの重要さをカラダで理解しているのではないでしょうか。

それと、コンセプトがブレていると内外装の完成度が落ちます。コンセプトが固まっていないと内外装のアイデアもあっちに行ったりこっちに行ったりして手間も時間もかかるうえ、結局は中途半端なものになってしまいます。以上のことからも、飲食店開業の専門家同様、私もコンセプトづくりは非常に重要と考える次第です。


さて、ここまで読んで「繁盛店で修業してこなかったし、自分はダメかも」とがっかりした方もいるかもしれません。いいえ、そんなことはありません! 

繁盛店出身のオーナーさんでも、最初からすんなりとコンセプトが描けてしまう方もいますが、多くは、頭の中で思い描く理想のイメージがぼんやりとはあっても上手にアウトプットできないもの。

どうやったらコンセプトがまとまるかというと、「語り合う場を作る」ことが大事です。特に料理人は一匹オオカミみたいな方が多いですが、ひとりで考えていてはダメ。まず自分の頭の中にあることを誰かに話す。そこから返ってくる反応をもとにさらに自分の考えを深めていく。これを「壁打ち」といいます。

これはやればやるほど、コンセプトの完成度が高まります。壁打ちする相手がいなければ、飲食店コンサルタント、地元の商工会議所、金融機関など有料・無料の相談先がありますから、そういうものを利用してもいいでしょう。


また、コンセプトづくりでは「一貫性がある」ことに加え、「1つだけトガらせる」「エッジを効かせる」ということも重要だと思っています。

 飽和状態にある飲食店の中から自分のお店に来てもらうには、他のお店とは違う魅力がなければなりません。つまりは「差別化」です。しかし、差別化しようとコンセプトにエッジを効かせすぎるとターゲットは狭くなり、だからといってたくさんの人が好むようなものにすると平凡になりがち。その匙加減が非常に難しい。

その点、私が見てきた繁盛店・潰れないお店はコンセプトのトガらせ方が絶妙です。自分たちの強みである部分だけエッジを効かせ、その他の部分はとてもベーシックにしています。

たとえば、東京・四谷の「荒木町 ろっかん」は「長期熟成された日本酒『熟成酒』のおいしさを伝えたい」をコンセプトに、それと相性のいい発酵食を使った料理を出されています。それが食通の間で評判となり、昨年にはミシュランのビブグルマンを獲得しました。

▼荒木町 ろっかん

ろっかん 照明

株式会社ごはんクリエイトは、千葉県・木更津で居酒屋の「ごくりっ」と洋食とワインの店「ブッフルージュ」の2店舗を展開し、現在3店舗めオープンを控えている急成長の企業です。「顔の見える生産者」から届く安全性の高い食材を使うことがこだわりで、かなりハードルが高いと言われている「有機JAS認証」を取得。既存の2店舗は千葉県で初の「JASオーガニックレストラン認証店」になりました。

▼洋食とワイン ブッフルージュ

ブッフルージュ

これも自分たちの「強み」をトガらせた好例といえるでしょう。同店の代表取締役・野口利一さんは千葉県産業教育審議会委員や木更津市の観光協会理事、食育推進委員にもなり、地域を牽引する存在となっています。

▼株式会社ごはんクリエイト 代表取締役・野口利一さん

野口利一様

▼2022年3月オープン予定の3号店「舵輪(だりん)」完成イメージ図。場所は千葉県木更津市の鳥居崎海浜公園。

舵輪1Fホールイメージ


この「強みをトガらせる」を感覚的にできてしまう人もいますが、人はなかなか自分の強みには気づけないもの。これには「STP分析」をおススメします。これは創業や新事業展開の際によく使われる、戦略立案のためのフレームワークです。細分化された市場の中からどこの市場を狙うのか、その市場で自分の立ち位置はどこかを分析することができます。

最終的にはコンセプトは「7W2H」という考え方に落とし込んでいきます。簡単にいうと「①Why(なぜ・開業動機)、②When(いつ・開業時期と営業時間、定休日)、③Where(どこで・立地)、④Who(誰が・主体となる人)、⑤Whom(誰を・ターゲット)、⑥What(何を・メニュー)、⑦Which(どれを・イチオシ商品)、⑧How(どんな方法で・フルサービスorセルフサービスなど提供方法、集客方法)、⑨How much(いくらで・値段)」というものです。これは飲食店開業の教科書的な本やサイトによく載っていますので、そちらを参考になさってください。

コンセプトは家でたとえるならば、基礎とか柱になる部分。ですから、お店をやりたいと思ったら、少なくとも3ヶ月くらいの時間をかけてじっくりと考え、開業予定の1年前にはしっかりと固めておきたいものです。

では、次回は店舗探しのポイントについてお伝えします。お楽しみに!

(山上浩明)

 

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