山翠舎のブログ

【小さなお店をつくる山翠舎のデザインマニュアル】 vol.2 照明編/中編

2022年01月05日配信

照明編2山翠舎がデザインするお店はなぜ雰囲気がよい空間が多いのか?

山翠舎のベテランデザイナーであるKさん、Yさんへの率直な疑問を、見習いデザイナーのHさんが投げかけ、業界動向を踏まえながら、基準寸法やリアルな経験に基づく考え方を図解していく企画。

雰囲気がよいお店づくりのポイントを照明からひもとく「照明編」。

今回は前編に続く中編です。

▶照明編/前編はこちら
◆登場人物
ベテランデザイナーKさん/ベテランデザイナーYさん/見習いデザイナーHさん/ゲストアドバイザーS氏

山翠舎デザインマニュアル


【コンテンツ】

お題その1/照明の色温度について(前編)
お題その2/照明の種類について(中編)
お題その3/照明の角度について
(中編)

お題その4/古木を照らすために照明は必要か
お題その5/照明のスイッチの位置


【中編】

お題その2/照明の種類について

Hさん
(前編からの続き)先ほど、ちらっと出てきたグレアレスとかブラケットといったライトの種類ですが、

山翠舎で基本的によく使う照明器具はありますか?

Kさん
まず簡単なところから。一般の人がわかるのはペンダント照明です。

お施主さんの予算がなくて、空間の意匠ができないというのはいつも僕らの悩みです。

その場合、一番簡単なのはペンダント照明をつけること。雰囲気のある空間がある程度安易にできあがります。

ふたつ目が、壁からのブラケット照明

あとは天井に埋め込むダウンライトです。

シーリングライトといって、天井に直につけるような照明器具もありますし、

照明の位置が可動できるライティングレールという手法もあります。スケルトンでコンクリート打ちっぱなしの空間の場合、よく使います。

また、山翠舎ではあまり使いませんが、壁に光源を入れる間接照明もあります。

コーニス照明とコーブ照明が代表的で、コーニスは壁面を間接照明で照らす手法コーブは天井面を間接照明で照らす手法です。

照明器具の種類はおおまかにいうと、このような感じです。

中編_照明種類

Yさん
大雑把に使い分けをいうと、

例えば道を車で走っていると、ファミレスなどは道路に面したところに照明を吊っていますよね。

運転手の目線よりちょっと上に照明があると、お店があることが認識しやすいんです。

ブラケットライトも同様で、人の目線よりちょっと上に明るい照明をつけると、ロードサイドの店は集客の可能性が多少高くなります。

Kさん
外からの見た目でいうと、もう一つがガラス越しの照明です。

人も虫と同じように光源が見えると寄っていく傾向があり、窓際にペンダント照明を吊るすと人が集まるというのがよく使う手法です。

照明編3

Yさん
あと、照明の種類にはスタンド照明もあり、背の高いものから低いものまであります。

住宅などでインテリアコーディネーターがよく使うやり方として、背の低い照明を入り口から見て突き当たりに置くと奥行きのあるスペースに見えます。

たまにお店でも使う手法ですが、広い店でないとお酒を飲んだお客さんに踏まれてしまう可能性があります。

Kさん
スタンド照明や行灯は、基本的にヨーロッパの住宅が、天井からの照明を使わず、低光源の灯をたくさんとることでリラックスするための空間づくりに使われていました。

日本も本来は江戸時代の燭台や油蝋燭などの低光源の風情がある雰囲気を好む人種でしたが、高度成長期に、「明るければ明るいほどよい」という蛍光灯の発想になってしまいました。

でも、リラックスできるのは、スタンドなどの低光源の照明を下のほうに設置して、天井面から照らさない空間です。

そのほうが空間の遠近感や濃淡が出るので雰囲気はよくなります。

ただ、実務の場合に字や物が見えないという問題もあって、明るい部屋にして雰囲気がなくなっているのが現代社会の問題かな。

Yさん
キャンプなどでテントのなかで過ごしたことがある人はわかると思いますが、

探し物などをしていて、テントの中を全部明るくしたい場合はランタンを天井付近に設置し、

調理をしたりみんなで雰囲気を楽しむときは下のほうに置きます。それだけでまったく雰囲気が異なることと同じですね。


照明中編1


お題その3/照明の角度について

Hさん
角度もどう考えればよいのでしょう?

例えば最近のコンビニはこのくらい、など、角度の目安はありますか?

Yさん
僕の場合は、店内ではいつも30度にし、それ以下は使いません。

Kさん
角度が狭角になるほどスタイリッシュになるので、僕もあまり使わないのが現状ですし、山翠舎は30度がメインです。

ただ、暗い照明の店がいいというお施主さんの場合は狭角を使います。

Hさん
狭角の角度はどのくらいですか?

Kさん
挟角は15度以下じゃないかな。広角は60度。

だいたいの照明器具はそういう角度で決まっていて、スポットライトとダウンライトは狭角、中角、広角の3種類から選ぶのが基本です。

中編_角度
Yさん
狭角の照明を使うのはショットバーですね。ショットグラスでシングルモルトのウイスキーを飲むようなお店です。

それでも僕の場合、暗くしたいという人の場合は30度の照明を使い、

先ほど話した通り、掃除も大事にしたいので調光で調節します。ただ、調光器をつけると照明がボケるという問題があるんです。

そこで、例えばペンダント照明で補ったりもします。

ベジビエ八ヶ岳1

Kさん
ペンダント照明をつけた後は光が広がってしまうので、狭角にしてもあまり意味がなくなってきますが、30度だとオールマイティという解釈になります。

60度にすると飲食店の場合は明るすぎて雰囲気が出ず、あまり狭角にするとスタイリッシュになりすぎる。

どちらでもとれる30度が無難な角度といえますね。

Yさん
もうひとつ説明すると、狭角になるほど光が強くなるので、15度はものすごくまぶしい光になります。

でも、15度の範囲しか照らさないから周りが暗く見えるんです。

Kさん
多くの人が勘違いするのは、照明の単位であるルクス(lx)が高いほうが明るいのですが、狭角はルクスが高くても空間全体は明るく感じません。

光の明るさを表す単位はルクス、ルーメン、カンデラなどいろいろなものがあるのですが、

ルクスは照度で、光を受けている面の明るさのこと。

光源から離れるほど光があたる量が少なくなり、近いほど明るくなります。

そこで、天井からの照明を床で測る場合とテーブル上で測る場合で明るさが変わってしまいます。

一方で、明るさの強さはルーメン(光の束)で示します。

ルーメンとは、光の明るさの量を表す単位。

カンデラは光源から出る光の強さ、光度、度合いですがあまり使わないので、ほとんどはルーメンかルクスで示されます。

Hさん
なるほど。ちなみに、角度はだいたいのメーカーが同じという認識でよいのですか?

Kさん
角度も、記載されていても誰も測れないものなので、そんなにシビアに設定していないのではないかと思いますよ。

Yさん
ただ、印象としては全メーカーで同じような設定です。

Hさん
例えば、お施主さんが予算上、設備を減額しなければいけない場合に、高い器具を選んでいたとすると、

角度もルーメンも同じであれば、別メーカーの照明に変えてもそんなに抵抗がないということでよいのでしょうか?

Kさん
基本的にはそうですが、LEDの場合、角度や電気容量の数字が同じでも反射板という問題があります。よい反射板を使うと、少ない光でも強い光を感じて明るい器具に見えたりします。

つまり、視覚照度(見た時の光の感じ方)という問題です。

僕らはそれをショールームに行って感じないとわからないんです。同じ条件で光を比べられないという問題があります。

Yさん
それと、ダウンライトは、ランプを真下から見た時に細かい粒々がいっぱい入っているものと、

丸いライトが一個だけの一つ目のものと2種類があります。

ショールームで比べてもらうとわかりますが、粒々が多いほうがちょっと光がボケています。この粒々が多い照明のほうが価格が安く、一つ目のタイプは光がシャープですが値段が高い。

なので、僕は同じような機種でも、値段が合わなかった場合、粒々のランプに変えた経験はあります。器具によっては1万円くらい違うこともありました。

Kさん
粒々が多いライトは影が出ないようにと開発された照明です。

このダウンライトに関して、最近のLEDで問題になるのが、照明器具と球が一緒になってランプだけを交換できない一体型タイプがほとんどになってきているということです。

そのほうが量産されているので安いですし、ある程度使い続けても10年ほど持つとされています。

ですが、実際問題、基盤が壊れるので10年持つかわからないのが現状です。

なので、球が切れたときはお施主さんが電気屋さんを呼んで交換してもらわないと補給ができません。

それなら自分で電球を買ってきて交換できる従来型(交換型)のほうがいいと、一体型を避ける人もいます。

やはり緊急時に自分で対応できない不安があるようです。そこをどう考えるか。たとえ10年持ったとしても、その後、電気屋さんに交換してもらう状況は避けられませんから。

▼天井にダウンライトを設置した事例

_DSC8837 (1)

Yさん
10年で全部の照明が同時に切れる心配をするお客さんもいます。現実はそんなこと考えにくいのですが。

アドバイザーS氏
基本的には全て壊れることを前提としていますよね。

先日は、海外の金属サッシを使っている案件で、海外生産なのでスペアを発注しても届かないということがありました。

結局、メンテナンスは皆さん苦労しています。

よほど格好よくて、どうしても使いたい器具なら、趣味で使っていただく。もしくは、2〜3個余計に買っておいていただき、何かあったら対応できるようにしておいてくださいとお伝えしたいです。

ほかにも、例えば海外の格好いい便器を買ったものの、ウォシュレットが取り付けられないとか、海外製を買って苦労している人がたくさんいます。

つまり、一体型のダウンライトでないほうがよいということではなく、

初期費用の安さを狙うなら一体型を選ぶとよいのですが、何かあったときは本体から変えなければいけない分、工事費がかかるけれど仕方ないと考えておいていただくとよいと思います。


「vol.2 照明編/後編」へ続く。

▶照明編/前編はこちら

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