突然ですが、これは何かわかりますか?
私の子供に聞いてみたら、「すべり台?」、「黒い木?」、「ボロい。曲がってるー」と答えが返ってきました。
これは古民家を解体した際に取り出した古い木材です。
屋根を支える梁材として使われており、その曲がった形状が昔の火縄銃に似ていることから『鉄砲梁』と名付けられています。
なぜ曲がっているかと言うと、斜面に生えた樹木が雪の重みに耐えながらも空に向けて伸びていった結果がこの形状なのです。
もちろん、これらが動くこともありませんし、言葉を話すこともありませんよね。
しかしながら、私たちには、この古い木材たちがまるで呼吸をし、語りかけてくるように感じるのです。
そして、この歴史を重ねた上質な木材を私たちは『古木(こぼく)』と定義し、飲食店や商業施設などの内装材として再利用しています。
ここは、新潟県糸魚川のとある古民家の解体現場です。
この度、家主様からご依頼をいただき、築200年のこの立派な古民家を解体させていただくことになりました。
これはがっちりと力強く組まれた鉄砲梁の1本を職人が手でばらす作業の様子です。
大きな木づちで何度も何度も下から振り上げ、ドンッ、ドンッ、ドンッと打ち付けて外していきます。
たった1本の梁に、重く大きな木づちを振り上げること10分間、
力加減、打ち付ける角度を確認しながら慎重に作業をしていきます。
古民家の構造を熟知した職人の経験と技術がなければ、このような解体はできません。
この作業を一つ一つ丁寧に行い、良質な古木を傷つけないように取り出していきます。
重機を使えば梁も柱もバラバラにしながら短時間で効率よく解体することが可能です。
なぜこんなにも時間も手間もかかることをするのでしょうか。
この古い写真は、家主様が17歳ころときの様子です。
重機のない時代、大の大人4人がやっと担いで1本、1本時間をかけて組み上げていった様子が見受けられます。
柱や梁を組み上げる上棟まで1年もかかったそうです。
現在一般的な住宅は着工から上棟式まで1カ月ほどと言われていますから、昔は一軒の家を建てることがいかに時間や労力を必要としたかわかります。
そうして、やっと完成させたときの大工さんたちの想いはどうだったでしょうか。
できあがった家に初めて住んだ人はどんな想いだったでしょうか。
初めて食事を作り、食卓を囲んだ日、笑った日、喧嘩した日、お祝いの日、新しい家族が増えた日、家族が旅立った日、大雨や大雪が降った日もあったでしょう。世代交代を重ねて今に至るのです。
この200年間、家主様のご家族はこの家を舞台に歴史を紡いでこられました。
この家の柱、壁、床、屋根、廊下、全てに人々想いと物語が詰まっているように思えてなりません。
私たちはその想いを未来につなぎ続けたいと強く願いながら丁寧に解体していくのです。効率よりももっと大切なものがそこにあるからです。
▼家主様からお話を伺う山上社長
こんなに多くの良質な古木を取り出すことができました。
これらは長野の大町倉庫工場に運ばれて大切に保管されます。
これまで屋根裏でひっそりと家を支えていた梁や柱は、これからデザイン性の高い内装材として生まれ変わります。
今度は人目につくところで空間のアクセントとなり存在感を放ちます。
その黒く艶めく美しさと温かみの風合いと手触りに人々が自然と集まります。
かつて家として人の集う場所だったように・・・。
いかがでしたか。
この冒頭で目にした『木材』の写真が、歴史を紡いだ物語のある『古木』に見えてきませんか。