山翠舎のブログ

【小さなお店をつくる山翠舎のデザインマニュアル】 vol.3 外観編/後編

2022年03月06日配信

ふらっと日な田建具山翠舎のベテランデザイナーである K さん、Y さんへの率直な疑問を、見習いデザイナーの H さんが投げかけ、業界動向を踏まえながら、基準寸法やリアルな経験に基づく考え方を図解していくこの企画。

雰囲気がよいお店づくりのポイントを照明からひもとく「外観編」、前編・中編に続く後編です。


【コンテンツ】
お題その 1/周辺環境とファサードデザイン(前編
お題その2/木製ファサードの注意点(中編
お題その3/サインにはどんな種類があるか(中編
お題その 4/建具にはどんな種類があるか(後編)
お題その5/住宅を店舗にした場合のデザイン(後編)


【後編】お題その 4/建具にはどんな種類があるか

Hさん
あと、お聞きしたいのは建具についてです。山翠舎にお店の設計を依頼する方は、横に引く引き戸を求めている方もいらっしゃいます。

建具の開け方でお店の雰囲気は変わるのでしょうか。


Kさん
和風の店は引き戸、洋風の店は扉。開き戸になります。

IMG_1046-1Yさん
欧米では概ね納屋や倉庫しか引き戸がありません。

北欧のほうでは1900年代初頭から1970年代にかけてのジャポニズムの流行の影響もあり、引き戸が定着していますが、それ以外の欧米では、引き戸はできるだけ大きく開口を取るような施設にしか使わないんです。ちなみに欧米の観光客が日本で初めて引き戸に遭遇したときに、開け方がわからないことがあるらしいですよ。

Kさん
引き戸よりも扉のほうが防犯性が高いんですよね。

つまり、ヨーロッパは堅牢なものを求めていて、日本の場合は単民族で安全だから、引き戸でも大丈夫だったというところもあるのかもしれません。


Yさん
まさにそうだと思います。日本の場合は火事のときの避難のために扉を外開きにするよう法律で決まっていますが、欧米は内開きなんですよね。それは暴漢が襲ってきたときに内側から扉を押さえられるためです。


Hさん
つまり、引き戸は日本特有なんですね。


Kさん
日本固有のものというと、蔀戸(しとみど)というものがあります。

今も神社やお寺などに使われていますが、上から吊り下げた格子戸で、扉を上に開けるんです。

それが日本古来の開口の仕方で、日本特有の開け方、物の考え方はいろいろあります。

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Yさん
それと、Kさんはよく、お施主さんが知らないものをつくってあげています。

建具の猿(さる)もそのひとつですね。


Kさん
おばあちゃんの家のトイレに行くと、たまに垂木のような木組みで閉まる扉の鍵がありますよね。

あれが猿です。僕はお店のトイレの建具でたまに使いますが、知らない人は何だろうと気になるところが面白いと思っています。トイレに入れないけどね。

猿4
▲木製の鍵「猿」


Yさん
本当に江戸時代に使われていた仕様で、それが客同士の話題にもなりますよね。スタッフに聞けば会話が弾むタイミングにもなります。

ほかにも、臆病窓(商店の店先の戸につくる小窓)や、アーケードのルーツでもある雁木造(がんぎづくり)などもあります。

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Kさん
雁木造は雪国で雪を防ぐためのものです。建物から庇を出してアーケードのようにし、隣家に行くために雪を防ぐ意味合いがあって、雪国には雁木造の家が連なっています。


Yさん
以前に雁木をテーマに店をつくったら好評でした。

和風の店や和モダンの店には、昔の伝統を取り入れていくのもひとつの手です。


Kさん
それと、建具には無双というものがあり、内側と外側の平たい格子のような二重構造の引き戸を開けると明かりとりや通気ができます。

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Hさん
伝統様式の建具を今に再現するということですね。


Yさん
しかも、昔ながらの手法で作る本物です。

こういうことは、ほかの設計・施工事務所やデザイン事務所からは簡単に出てこない知識であり、ありがたいことに山翠舎の本社がある長野の職人さんたちはそういう仕様を知っています。


Kさん
こういう様式美は現代でも通用すると思っています。民芸の「用の美」という考え方ですね。

つまり、高級な美術品だけが素晴らしいわけではなく、日常に使うもののなかで美しさを極めていった考え方が「用の美」です。それを山翠舎に取り入れられたらいいと思っています。

Yさん
とはいえ、山翠舎は和風だけではなく洋風も得意ですから。

イギリスならビクトリアンもあればジョージアンもあり、フランスの伝統様式など、いろいろな国の建築様式も山翠舎のデザイナーは設計できます。イタリアンやフレンチの店も多く手がけています。

Kさん
ヨーロッパも木で作った屋根や外壁などの建築様式がありますし、日本と共通する手法は海外にもありますよね。

Yさん
あとはスレート屋根や板葺き屋根もありますね。洋風の空間に山翠舎のノウハウをどう生かすか。

Kさんも僕もマニアなので、いろいろ勉強してきました。海外に行くのが一番です。


Kさん
「用の美」というと、民芸運動の創始者である柳宗悦が提唱したものですが、僕は民芸陶器の巨匠・河井寛次郎(かわいかんじろう)の京都にある『河井寬次郎記念館』に行ったことがあり、とても素晴らしかった。

栃木県益子町にある陶工・濱田庄司(はまだしょうじ)の『濱田庄司記念益子参考館』も以前に行きました。


Yさん
濱田庄司の参考館の建物は周辺環境も含めてびっくりしますよね。


Kさん
あと、イギリス人のバーナード・リーチですね。民芸の面では、この3人を勉強しておいたほうがいいですね。

Yさん
こういうことは、飲食店、特に和風料理を作っている方はご存知の場合が多くて、寿司職人や和食の料理人さんは詳しい方が多いです。

そこで話を持ち出すと、共通言語ができて信頼関係が生まれるので、「こういう食器を使ったらいい」とか、話に説得力が加わりますよね。


お題その5/住宅を店舗にした場合のデザイン

Hさん
最後に、山翠舎でお店づくりをするオーナーさんは、路面店を賃貸で借りることが多いと思いますが、オーナーさんが見つけてきた物件で住宅っぽい感じが残っていたり、既存の状態があまりよくない場合、山翠舎に頼めばどのようなファサードにできるかをお聞きしたいです。


Kさん
元の外観がチープだと、売上がちゃんと取れるお店にできるか不安を抱くオーナーさんに対する提案ということですね。

Hさん
例えばアルミサッシの住宅の場合は、どうしたらお店っぽく見えますか。


Kさん
その前に、だいたい住宅地でアルミサッシを木製に変えようとしても、延焼ラインにかかってしまうからできない場合が多いんです。


Yさん
あと、2階建て、3階建ての規模の大きい店の場合は規制が入るので、用途地域としてお店にできないケースもあります。

Hさん
実は今、ローカルエリアで担当している物件が、「もともと住宅だった母屋全体を和食の店にしたい」という要望なんです。全ての窓にアルミの二重サッシが入っているので、外側を全部木製に変えたいというのがお施主さんの希望です。

Yさん
内側なら簡単なんだけどね。


Kさん
格子をつけるなどの方法になるかな。

▼外観に格子をつけた事例(荒木町ろっかんさん)

ろっかん外観-1
Yさん
それと、賃貸は退去時に原状回復の要項があるので、万が一撤退するときに、格子をつけるだけなら原状回復は簡単ですが、建具を交換するとなると元に戻すためにまたお金がかかりますし、延焼ラインに引っかかるという法的な問題もあります。

地域によっては消防で木製フレームでも網入りガラスを使えば問題ないところもあるのですが、どの地域でもそういうわけにいきません。


S氏
そういうなかで世の中には安っぽい建具のお店もありますが、山翠舎の店づくりは建具がすごいと思っています。

手が触れる部分が木製だと、にじみ出る迫力があると思うのですが、そのへんのこだわりはありますか。

Kさん
入口の建具は最初に触って入るところなので無垢材で作りたいのですが、環境によって反ることもあり、本当は大きな建具にしたいと思っても基本サイズの制約もあって、いかに迫力ある建具にできるかはいつも考えています。

その点、蔵戸は厚みがあるのがいい。普通の建具は3~4cmほどの厚さですが、蔵戸なら5~7cmほどあります。

ただ、厚い建具は機能的な問題もあるので、どう使ったらいいかといつも悩みます。建具は非常に奥が深いんです。


Hさん
では、次回のテーマは建具の深堀りにしましょう。


Yさん
山翠舎はもともと建具屋から始まったので重要なものですし、会長の思い入れも強いところなのでいいですね。本気で話し始めると3日くらいかかりますけどね(笑)。


まとめ/


店の印象に大きな影響を与える外観は、サインにもアイコンにもなり、集客を大きく左右する重要な要素です。

だからこそ、出店エリアや立地条件、客層、客単価も踏まえて、コンセプトを魅力的に伝え、ターゲットに刺さる効果的な外観をつくっていく必要があります。

どんなに料理がおいしくても、サービスがよくても、まずは入店してもらわないと意味がありません。

その点、山翠舎では古木のように長年息づく繁盛店づくりをめざし、ベテランデザイナーが他店との差別化を図りつつ、周辺環境にマッチしながらもさりげなく目を引く、印象に残る外観デザインに努めています。入店したくなるような店づくりは、長年の経験のうえに成り立っています。


次回は「vol.4 建具編」をお届けします。

vol.3 外観編 ▶前編 ▶中編


シリーズ企画【小さなお店をつくる山翠舎のデザインマニュアル】こちらも合わせてご覧ください!

vol.1 カウンター編 前編 ▶中編 ▶後編

vol.2 照明編 ▶前編 ▶中編 ▶後編

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