あなたはずっと大切にしていたものを手放したことはありますか?
時計やアクセサリー、車、家具など、自分の趣味のものもあれば、ご家族から代々受け継いできたものもあるでしょう。
それが何であっても思い出の詰まったものとの別れは寂しいものです。
しかし、それから数年が経ったある日、思いがけず再会できたらどうでしょうか。
これは、古木5000本を保管する大町倉庫で、3年前に解体した棟木との再会を果たした奇跡のお話です。
こちらは木彫作家の海川 盛利(うみかわ もりとし)さん。
3年前の2019年、海川さんの所有する築150年の立派な蔵を当社で解体させていただきました。
▼海川さんの蔵 解体時の様子
当時の様子はkoboku通信で記事になっています。
「築150年の土蔵を手放す」古民家解体の裏にある、持ち主海川さんの想い。
記事の中で解体時の想いをこのように語っていました。
”海川:何とも言えないですよ。壊れていく、歴史がひとつ閉じるような感じで。
ここで生まれ育った80歳過ぎた叔母が家に拝んでいましたよ、今までお世話になったって。
自分のストーリーがこの家に全部詰まっているから。
なくなっちゃったって、ぽっかりと心に穴が空いた気分。”
▼解体作業の様子。この太くて立派な棟木です!150年もの間ずっと土蔵を支え続けてきたのですね。
その後、解体された蔵から引き取られた古木は大町倉庫で保管されています。
▼5000本の古木を保管する大町倉庫
古木をモチーフにした造形作家でもある海川さん。
海川さんと山翠舎とはずっとお付き合いが続いており、古木スツールなどの家具製作に協力いただいています。
11月のある日、海川さんがふらりと大町倉庫に遊びに来てくださったとき。
奇跡は起きました!
「海川さん家の棟木が丁度出てきましたよ!!」と奥から倉庫スタッフの声。
「え〜っ?!」と、奥に見に行ってみると、長さ9メートル近くもある立派な棟木がドーンと横たわっていました。
この棟木と対面するのは3年前の解体以来。
「まさかこんな形でまた見られるとは思いもしなかった!」と、再会の嬉しさに思わず笑みがこぼれる海川さん。
それにしても、なぜ5000本もの古木の中から、「海川さんの蔵の棟木」ということがわかったのでしょうか。
この棟木には『大町平122』と記載されています。他にもサイズや「松」の文字も。
このラベルに書かれている情報が「海川さんの蔵の棟木」ということを証明しているのです。
山翠舎では日本初の『古木トレーサビリティ』による管理を行い、
一本一本の入手地や年代、古民家のどこに使われていた部位かなどを記録し管理をしています。
『トレーサビリティ』とは「追跡可能性」と訳され、「いつ、どこで、誰によって、どのように作られたのか」記録を残し、ものの動きの最初から最後までを後から確認できる状態にすることです。
身近なところでは、生鮮食品やお肉など食品業界で取り入れられています。
山翠舎では"古木"にトレーサビリティを導入することで、海川さんの蔵の棟木と再会することができたのです。
もし、トレーサビリティがなかったら「どこかから引き取った古い木材」というだけだったでしょう。
古木に情報を記録し保管することにより、一本一本にストーリーが宿ります。
そして、いつかどこかの新しい空間で活用される日をじっと倉庫で待っているのです。
もしかしたら、海川さんの古木はレストランを開業する新しいオーナーさんの手に渡る日が来るかもしれません。
そのとき、オーナーさんはこんな話をするかもしれません。
食事に訪れたお客様に「私のお店にあるこの古木は、長野大町にあった150年前の蔵を解体したときのものなんですよ。」と。
▼古木活用施工事例(ほうとう天地)
このように古木を活用した空間には「歴史」という付加価値がつくのです。
古木のある空間が長い歴史に守られているような感覚になるのは、古木にはストーリーが詰まっているからです。
また、当時の職人の手仕事の跡からは受け継がれてきた匠の技に触れる喜びを感じます。
古木トレーサビリティを通じて、古民家の家主から未来のオーナーへ、歴史や想いを乗せた古木のバトンを繋いでいきます。
古民家の活用・移築・解体のご相談をはじめ、古木を使った居心地のよい飲食店の設計施工のご相談はお気軽にお問い合わせ下さい。